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パチッ、パチパチ・・・


周囲は既に夜の帳が落ちていた。
ジグムントとラビは捨てられた山小屋の中で火を焚き暖を取っていた。

「ごめんなさい・・・私が服で迷ってたせいでこんな山中で・・・」
ラビはしゅんとした表情で俯く。
「いや、お前だけのせいじゃない、俺が寝坊しちまったのがそもそもだ。」
「でも・・・」
「気にするなって。」
「ありがとう、ジグムントさん・・・」

少し笑顔が戻ったラビ。
対するジグムントは何ともむず痒そうな表情だ。
「ジグムントさんか・・・なんかこそばゆい呼び名だな。」
「えっ、じゃあ・・・お兄さんとか?」

ジグムントは口をへの字に曲げてさらにむず痒そうになる。
「ん~もっとこそばゆい・・・」
「じゃあ、お兄ちゃん!!」
「・・・・んぬぬ~もっともっとこそばゆい・・・」

「じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「おっさんとか・・・後は呼び捨てでジグムントとか・・かな。」
「それはちょっと酷いよ・・・う~ん、おじさんとか?」
「おじさんか・・・年齢的にはそんなもんだし、それでいいか。」
「わかったそれにしようよ、おじさん♪」

ラビはにこやかな笑顔を見せた。
「そういえば、おじさんって歳はいくつなの?」
何気ない質問のつもりだった。
「歳か・・・・・・わかんねぇんだ・・・」
「えっ?」

ラビは不意な答えに意味を図りかねていた。
「多分30前半ぐらいだと思うんだが・・・誕生日を忘れちまった。
今まで一度も誕生日を祝ってもらった事も無いし、気に掛けたことも無い。
だからいつの間にか正確な歳を忘れちまった・・・」

「・・・・・・そっか。」
好奇心に満ちた目は悲しげな光へと変わり地に伏せた。
「ラビ、お前は歳いくつなんだ?」
濁した空気を換えようとジグムントが話を振る。
「あたしはね~14歳、3月12日生まれなんだ。」
「そうか・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

(まずい、空気を戻そうと無理に話題を振ったが続かん・・・)
ジグムントは必死に頭を振り絞ってネタを考えていた。
「ねえ、おじさん!!」
「なっ、なんだ?」

急に口を開いたラビに一瞬ドキッとする。
「おじさんの誕生日、今日にしようよ!!それで~年齢は32歳!!」
「今日ってことは4月1日か・・・まあそれでいっか。」
あまり興味の無いジグムントはそっけなく答えた。
しかし、ラビはにこやかに話を続ける。
「だから、今日はおじさんの誕生日!!32歳の誕生日!!」
「ああ?・・・まあそうなるな。」
「だから、お祝いしてあげる・・・ハッピバースデイトューユー、
ハッピバースデイトューユー、ハッピバースデイディアおじさん~
ハッピバースデイトューユー♪」

「・・・・・・」

(初めて、だ・・・)
ジグムントは胸に熱いモノを感じた。
初めて誕生日を祝ってもらえた事。
初めて存在を認めてもらった事。
初めて誰かに愛された事。
そして、初めて嬉し涙を流した事・・・
「おじさん、泣いてるの?」
「・・・・・・・・・いや大丈夫だ、よし!!誕生日ならお祝いだな、
ちょっと贅沢して干し肉を食べる事にしよう。」

「やった~♪」
「干し肉とチーズを軽くあぶって、パンに挟んで食うと中々いけるんだ。」
「うんうん・・・」

暖炉の炎で軽くあぶった干し肉とチーズをパンに乗せる。
ジュッと油の浮いた干し肉と、柔らかく伸びたチーズが重なって食欲をそそる。
「さあ、出来たぞ・・・熱々のうちにこれを豪快に頬張ってワインを飲むと最高の相性だ。」
そう言ってジグムントはコップにワインを半分ほど注ぐ。
「いいか、お前はガキだから飲みすぎるなよ、ワインはコップの分だけにするんだ。」
「ウン、わかった。」
(さて、次は俺の分を作るか・・・・)
ジグムントが肉とチーズのあぶり加減を見張っていた矢先、ドタンッ!!
「ふへぇええ・・・・」
「なっ!?!?!?ラビ、どうした!!」
「えへへへへへへぇぇ・・・」
「あっクソ・・・テメェ!!」

見るとワインの瓶は半分ほどに減っている。
「だから、あれほどコップの分だけにしろっていったのに!!」
「ごめんらひゃい・・えへへ♪」

ジグムントはハァ~と大きなため息を付いた。
「もういい、ゆっくり寝ろ、火の番は俺がするから・・・」
ラビはジグムントに返事をする余裕も無く、
すーすーと寝息を立て深い眠りについていた。
(はぁ・・・子供らしいと言えば子供らしいけどよぉ・・・トホホ)
ラビの子供っぽさが憎らしい反面、昨日までの怯えた少女が
子供らしい純粋さを取り戻してくれたことが内心嬉しかった。

(まさか子供に慰められるとは思ってもみなかったよ・・・)
「ハッピーバースデイか・・・フフフ」

無邪気な寝顔を横目で眺めながらジグムントは悪くない気分にひとりごちていた。



続く
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