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『・・・される、ころされる・・・こんなかおじゃ、ころされる』
『すてよう、かおをとったら・・・・きっとあたらしいかおがはえるんだ・・・』
『がまんしなきゃ、かおをとれば、父さんだって、母さんだって、みんなだって』
『ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


「ウッ!!」
時計の針は既に朝の10時を過ぎていた。
久々の柔らかいベッドが彼に寝坊をさせたのだろうか。
「うなされてたけど・・・大丈夫・・ですか?」
ラビが心配そうな顔で覗き込む。
「すまない、大丈夫だ・・・」
テーブルには既に朝食が並んでいた。
2人は卓につき、少し遅い朝食を取る。
「昨日は良く眠れたか?」
ラビは黙って頷いた。
「食事とても美味しくて、初めてベッドで寝ました・・・とても柔らかくて・・・」
「ベッドは初めてか・・・」
「今までずっと床で寝てたから。」
「そうか・・・」

少し重い空気のまま会話も詰まり、お互いに黙々と食事を口に運ぶ。
ジグムントは仮面をつけたまま慣れた手つきで口元に空けた穴から器用に食事をした。
やがて料理も食べつくし、暫くの沈黙の後ジグムントは口を開く。
「これからどうする?」
「・・・・・・・・・・」

ラビは俯いたまま、口を紡ぐ。
「親のところとか・・・帰る宛てはあるか?」

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」


お互いに口も開かず、目も合わさず、数分の時が流れた。
その沈黙を破ったのはラビだった。
「家に戻っても・・・また売られる・・・帰る場所なんか無い・・・」
「そうか・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」


また沈黙の時が流れる、その重圧に耐えきれなかったのかジグムントが口を開いた。
「なんだったら俺と一緒に来るか?俺は色んなとこを旅してまわってんだ。」
ラビは驚いたのか瞳がまん丸になっている。
「えっ?・・・いいんですか?」
「ああ、帰る場所がないってならそれで構わん、但し結構歩き回るから
相当に疲れるけどな。こんな上等の宿に泊まる事なんて滅多にないし、
野宿も多い・・・それでもいいなら。」

ラビは落ち着いた表情でその問いに答えた。
「野宿でも、歩き回っても平気です・・・もう、もうあんな家に帰りたくない・・・・」
「だろうな・・・・」

ズタ袋の仮面からはジグムントがどんな表情をしているか分らない。
だが、その声は悲しげだった。
「兎に角、旅に出るならそのボロの服装じゃ厳しいな・・・寝袋も食料も買わないとな。
これから買出しに出る、新しい服と靴も買うからついて来てくれ」

2人は宿を出ると、新たな旅路への準備を整えに向った。


ラビの寝袋にザックに靴、干し肉、乾パン、ライムの砂糖漬け、
ナッツ類にワイン、順調に買い物は進んだ、ある物を除いては・・・

「ハァ~まだ迷ってるのか?」
「ごめんなさい・・・・」

洋服屋で2人の買い物は難関に差し掛かっていた。
「スカートはなぁ、可愛いいだろうが旅には向かないんだよ」
「ごめんなさい・・・でも・・・」

ラビはいじましそうな目でワンピースのスカートを見つめていた。
白地とレモン色にささやかなフリルが付いた女の子が好みそうなデザイン。
「まあ、気持ちはワカランでもないけどな」
「・・・・・・・」
ラビの瞳は今にも涙が滴り落ちそうな程に潤んでいた。
(コイツ、思ったより我侭嬢ちゃんだな、トホホ・・・)
ジグムントは彼女の強情さにガックリとうな垂れるしかなかった。
「分ったそのワンピースでいいよ・・・但しスカートの下に薄手でいいからズボンを履くんだ」
「うん!!♪」
先ほどのドンヨリ曇った表情から一点、快晴の空のようなにこやかな笑顔を見せる。
(まあ、服を買ってもらうなんて今まで無かったんだろうな。
きっと同い年の女の子が可愛い服を着ているのを指を咥えて見るしかなかったんだろう。)

憧れのスカートを履いて上機嫌なのかラビは嬉しそうに軽い足取りでクルクルと回っていた。
昨日までの陰鬱な彼女とのあまりのギャップにいささか呆けに取られるジグムント。

「アイツまだ、子供なんだよな・・・あれが子供の本来あるべき姿なんだ」
(自分だけボロっちい麻の服着せられて・・・兄貴達は絹の立派な服だった
もしも欲しかった服が着れたら、あの時の俺もこんな風に笑えたのかな・・・)

はしゃぎまわるラビを見ているうちに、嬉しさと悲しさが混じった不思議な感情が胸を締め付けた。
「おい、あまり時間を無駄にすると後がキツイ。次の街へ向うぞ!!」
「うん!!♪」



続く
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